更新日時:2021年5月1日
行政書士 佐久間毅
日本に3カ月を超えて滞在する外国人のかたは、原則として何らかの公的医療保険に加入しています(国民皆保険制度)。
公的医療保険に加入していれば、いわゆる保険証が交付されます。
一方で、短期滞在者や医療滞在ビザでの滞在者、不法滞在者など、日本の公的医療保険に加入できない方や、
加入義務があるけれども加入していない方などは保険証をお持ちではありません。
外国人にかぎったことではありませんが、保険証の使いまわしなどもひところ問題となりました。
この記事では、外国人の保険証についてあますことなく解説します。
法令により国民健康保険に加入する義務があるとされている外国人のかたは、つぎのとおりです。
◇加入要件
・適法に日本に中長期在留する人 ※職場の健康保険に加入しているなど後述する例外に該当するときを除きます
・特別永住者の人
・一時庇護のために上陸の許可を受けた人
・仮滞在の許可を受けた人
・出生により日本に在留することとなった人
・日本国籍の喪失により日本に在留することとなった人
つぎの方々は法令により、国民健康保険に加入することができないものとされています。
職場の健康保険に加入されているので必要がなかったり、相互扶助という「保険」の目的から外れていたり、別の医療扶助を受けることができたりするなど、加入できないとされている理由はさまざまです。
・不法滞在など、在留資格のない方
・在留資格が「短期滞在」の方
・在留資格が「外交」の方
・在留資格が「特定活動」の方のうち、“医療を受ける活動”または“その方の日常の世話をする活動”の方
・在留資格が「特定活動」の方のうち、“観光、保養その他これらに類似する活動を行う18歳以上の方”または“その方と同行する配偶者”
・在留期間が3か月以下の方(注)
(注):在留期間が3か月以下でも、在留資格が「興行」、「技能実習」、「家族滞在」、「公用」等の場合で、資料により3か月を超えて滞在すると認められる方は、加入できます。
・日本と医療保険を含む社会保障協定を結んでいる国の方で、本国政府から社会保険加入証明書(適用証明書)の交付を受けている方
・職場の健康保険に加入している方とその扶養者
・75歳以上の方(後期高齢者医療制度の対象となります)
・生活保護を受けている方
母国の医療保険制度が役に立たないことから公的な保険制度に期待をされていなかったり、保険料が高すぎると感じたりして、日本の公的医療保険に加入したくないとおっしゃる外国人のかたは相当数いらっしゃいます。
それでは、加入義務があるにもかかわらず加入しないでいると、病院での医療費が全額自己負担になるということは当然としても、他にどのようなデメリットがあるのでしょうか? 見ていきましょう。
加入義務があるにもかかわらず加入していない場合はもちろんのこと、それだけではなく、保険料を納期限に遅れることなく適時に支払っていませんと日本の永住権は不許可になる可能性が極めて高くなります。国民健康保険料は、国民健康保険税という地方税の一種であるからです。
かつては日本の永住許可申請の審査において、社会保険関係の支払い状況はほとんど影響を与えていませんでしたが、2019年より永住権申請の必要書類として「公的医療保険の保険料の納付状況を証明する資料」が求められるようになり、公的医療保険の支払い状況が厳しく審査されることとなりました。
特定技能の在留資格の在留期間の更新申請においては、必要書類として公的医療保険の関係書面の提出が求められており、公的医療保険の保険料の納付状況が審査されます。
外国人のかただけでなく、日本人においても問題になっているようですが、ご自身の保険証をお持ちでない方がご友人や知人の保険証を使って医療費の支払いの一部を免れると、詐欺罪に問われます。
医療機関は、保険証に記載されたお名前の人物と、保険証を提示したかたが別人であり、なりすましであると判断すると警察に通報することになっています。具体的には、人を欺いて支払を免れている点で、キセル乗車と類似の詐欺利得罪に問われます(刑法246条2項)。
たとえ執行猶予がついても有罪判決を受けて刑が言い渡されれば前科であることに変わりがなく、犯罪歴があれば「素行の善良性」が失われますので、在留資格の変更許可申請や、在留期間の更新許可申請、永住許可申請などの結果に影響することとなります。
詐欺罪は未遂も罰せられる未遂罪であり(刑法250条)、他人の保険証を医療機関において提示するという欺罔行為を行った時点で実行の着手となり、支払いを免れるという処分行為の時点で既遂となります。
2020年1月10日の厚生労働省の通知「保険医療機関等において本人確認を実施する場合の方法について」によれば、本人確認は医療機関の義務ではないが、任意に行うことができるとしており、在留外国人で被保険者証と本人確認書類の氏名が異なる場合には、被保険者証記載氏名と同一の氏名が記載された他の本人確認書類を確認することや、所持している本人確認書類に記載された生年月日等(氏名以外)が被保険者証のものと一致するか確認することなどができるものとしています。
ただし、医療機関は受診当日に本人確認書類を提示することができないからといって、診療を拒否することはできません。あくまでも後日、罪に問われる可能性があるという意味です。
法律上の加入義務がある方は、下記の加入手続きをとっていただき、加入することができない方は他の対応を模索することになります。
国民健康保険は本来、入国日、転入日または今まで加入していた健康保険の資格喪失日(退職日の翌日)から14日以内に手続きしなければなりませんが、その期日を経過していても加入することができます。ただし、国民健康保険料は地方税なので、資格取得日に遡って保険料を支払うこととなります。
手続きは、本人または住民票上、同一世帯の方が行うことができます。別世帯の方が手続きするときは、委任状が必要になります。
<持ち物>
・在留カード
・指定書 ※在留資格が「特定活動」の方のみ。指定書はパスポートにホチキスで貼付されています。
・この他、資格取得の状況に応じた書面 ※市区町村役場で確認してください。
<窓口>
市区町村役場の国保・年金課
法人の場合は健康保険の強制適用事業所であり、個人事業主の場合も法定された16業種で、常時5人以上の従業員を使用している場合には健康保険の加入義務があります。
これら強制適用事業所に常時雇用されている外国人は、健康保険に加入することにより保険証を入手することができます。
なお、外国人が常時雇用ではなくアルバイトであっても、次の場合には職場の健康保険に加入することとなります。
・1週の所定労働時間および1か月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上であるとき
・常時501人以上が勤務する会社において、週の所定労働時間が20時間以上であり、雇用期間が1年以上の見込みで、月額賃金が8.8万円以上であるとき
旅行者などの短期滞在者は公的医療保険への加入要件を満たさないため、本国で海外旅行保険に加入してから来日するのが通常で、観光庁の調査によれば、訪日外国人の73%が加入者であり、23%が未加入者でした(「訪日外国人旅行者の医療に関する実態調査(2018)」)。
海外旅行保険は母国で加入してから来日するのが大半ですが、近年は日本に入国してから加入できる海外旅行保険も登場しています。
無料低額診療事業とは、生計困難者が経済的な理由により必要な医療を受ける機会を制限されることのないよう無料又は低額な料金で診療が行なわれる事業です。
生計困難者のための事業のため、相応の所得があるのに単に保険料が高いから公的医療保険に加入したくないというだけの方は利用できませんが、生活困窮の状態にいらっしゃる外国人のかたは利用することができます。
外国人の一部は、通名(通称名)を登録することができますが、登録された通名は住民票に本名と共に記載されます。
保険証の名前は住民票と同じにすることとされていることから、保険証の名前は本名・通称名のどちらでも作成することができます。
通称名を希望するときには、健康保険であれば「健康保険証等の通称名表記に関する申出書」や、国民健康保険であれば「被保険者証への通称名記載に関する申出書」を提出します。
なお、在留カードに記載される氏名はパスポートと同じ本名のみであり通名は記載されません。英字アルファベットで表記されますが、漢字使用国のご出身の場合は、漢字をアルファベットとともに併記することができます。このときの漢字は日本の正字のみが認められ、中国の簡体字などは記載できません。
行政書士 佐久間毅(さくま・たけし)
東京都出身。慶應義塾志木高等学校、慶應義塾大学法学部卒。高校在学中に米国コロラド州のイートンでホームステイ。大学在学中は、他大学である上智大学の国際法の権威、故・山本草二教授の授業に通い詰める。大学卒業後は民間の金融機関で8年間を過ごし、現在は東京・六本木でビザ専門のアルファサポート・行政書士事務所を開業。専門は入管法、国籍法。執筆サイト:配偶者ビザ
国際結婚と配偶者ビザ