更新日時:2020年6月21日
行政書士 佐久間毅
外国人雇用を検討している日本企業です。うちの会社で外国人を雇いたいのですが、外国人採用は初めてのことで何から手を付けて良いのか全然わからないんですよね。
それじゃあ、僕が外国人の募集方法から就労ビザの取得方法、採用前後の注意点まで、外国人雇用を成功させるためのイロハを伝授してあげるよ!
外国人雇用の出発点は、やはりビザなのですね?
そうそう。なぜかというと、外国人雇用の場合は、当事者が雇用契約を結んだだけでは働きはじめることができないからなんだ。
せっかく双方が納得して雇用契約を結んでも、就労ビザが許可されなかったら無駄骨というわけですね。
だから就労ビザが許可されるはずの外国人と、許可される職種で、許可される内容の雇用契約を結ばなければならないよ。
そのためには、事前に就労ビザの知識がないといけないよね?
【解説】
就労ビザを取得するに際しては、①外国人本人の要件、②会社の要件、③仕事内容の要件の3つをクリアする必要があります。
具体的な要件は就労ビザごとに定められているので、最終的には在留資格ごとに確認する必要がありますが、
おおまかに共通項をご説明すると、外国人本人には、「学歴」や「職歴」が必要となります。会社には、「経営の安定性」と「事業の適正性」が求められます。
仕事内容は、入管法が認めた職種である必要があり、さらには外国人にフルタイムで担当させるだけの「仕事量」が必要です。
1-1 雇用契約を結んでも、就労ビザが許可されなければ働くことができない
日本人の場合は、求職者と企業が仕事の内容や給料の額に合意して雇用契約書を締結すれば、その日からでも働くことができます。
しかし外国人の場合は、原則として、その後に就労ビザを申請して、出入国在留管理局から許可された後でなければ仕事を開始することができません。
もし許可前に働いてしまえば「不法就労」となります。外国人に不法就労をさせてしまうと企業側も「不法就労助長罪」に問われますから慎重になる必要があります。
“ 原則として ” 就労ビザが必要といったのは、後述する「例外」もあるからです。つまり、就労ビザを取得しなくても働くことができる外国人が一定数います。
就労ビザがなくても日本で働くことができる外国人については、後述します。
1-2 就労ビザが許可される外国人とは
就労ビザが許可されるためには、申請人である外国人本人が一定の要件をみたす必要がありますが、これは申請する就労ビザの種類により異なります。
例えば、料理人(コックさん)のビザは、学歴は問われませんが、職歴が問われます。海外の母国の料理店で10年以上のキャリアを積んでいる必要があります。
いっぽう、エンジニアでしたら多くの場合で、当該分野を専攻して大学を卒業している必要があります。
また留学生など国内に居住する外国人を採用する場合は、外国人ご本人の「素行の善良性」も必要です。つまり、法令違反があるなどこれまでの在留状況が悪い方の場合は、いくらその他の要件をクリアしていても就労ビザが許可されません。
1-3 就労ビザが許可される会社・職種とは
就労ビザが許可されうる会社とは、「経営の安定性」と「事業の適正性」をみたしている会社です。この観点から、上場企業などは就労ビザが許可されやすい会社です。ただ単に許可されやすいだけでなく、許可されるビザの期間(在留期限)も長いものが許可される傾向にあります。これは上場企業であれば、公認会計士の監査が義務化されており、経営の安定性が確保されやすく、また許認可ビジネスを無許可で行うようなことは通常ないであろうという推定が働くからです。
いっぽうで、会社の規模が小さくなればなるほど、就労ビザは許可されにくくなります。「事業の適正性」はともかくとして、「経営の安定性」を立証することが困難であるからです。
売上が小さかったり、売上は大きいが利益が出ていないなどの会社は要注意となります。
職種については、例えば、幼稚園で外国人を保母さんとして雇用することはできません。日本は保母さんの仕事を外国人に開放していないからです。しかしながら、同じ幼稚園でも、経営企画的な仕事や、マーケティング、経理・総務などの仕事に就くことは可能です。これらの職種は、技術・人文知識・国際業務という在留資格を取得すると、することができるからです。
つまり法人の中に存する様々な職種のうち、外国人を雇用して任せられる職種と、任せられない職種があることに注意が必要です。
1-4 就労ビザが必要ない外国人とは
外国人が日本で雇用され働くためには、原則として就労ビザを取得しなければ不法就労となります。しかしながら、例外として、就労ビザがなくても自由に働くことができる外国人もいます。これらの外国人を雇用する場合には、就労ビザ取得のためのサポートはいらないため、日本人とあまり変わらないフローで採用することができます。
その就労ビザがなくても自由に働くことができる外国人とは、「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」の在留資格をもつ方々です。在留カードでこれらの在留資格を確認できた場合は、単純労働から高度な仕事まで自由に雇用することができます。これらの方々は、仕事を行うスキルを基準に在留資格を与えられているのではなくて、その方の法律上の地位・身分(日本人の配偶者であったり、日系人であったりします)に基づいて在留資格が与えられているため、日本における就労に制限はないのです。
1-5 就労ビザの種類ごとの要件を確認するには
就労ビザの要件は、ビザごとに異なりますし、ビザの中でも職業ごとに異なります。例えば、熟練した技能をもつ外国人に与えられる「技能ビザ」は、料理人やパイロットなどが持つ在留資格ですが、当然のことながら、コックさんとパイロットでは、クリアしなければならない要件はまったく異なります。
したがって、就労ビザの要件というようなザックリとした括りは意味がないので、個別の就労ビザごとに、要件を調べる必要があります。
代表的な就労ビザの要件を細かく知りたい方は、次の専門サイトをみてみましょう。
専門職の就労ビザのなかで最もメジャーな在留資格である「技術・人文知識・国際業務」のみにフォーカスした、ビザ取得の要件や必要書類をわかりやすく解説した特別サイトです。エンジニアや事務系職員、国際業務などを担当する外国人のための在留資格です。
詳しくはこちらをクリック>>>「技術・人文知識・国際業務」
熟練したスキルをお持ちの方がその能力を活かすための就労ビザである「技能ビザ」のみにフォーカスした、ビザ取得の要件や必要書類をわかりやすく解説した特別サイトです。料理人やパイロットなどが取得する就労ビザです。
詳しくはこちらをクリック>>>「技能ビザ」
人手不足が顕著と認められた14の産業でのみ認められる単純労働者のための就労ビザです。他の一般的な就労ビザよりも、むしろ技能実習に似た極めて複雑な申請準備が必要となります。詳しくはこちらをクリック>>>「特定技能ビザ」
外国人を募集するのはどうやれば良いのでしょうか?
外国人はネットワークで強く結びついているから、ひとり採用すれば、芋づる式に次の候補者を紹介してくれることも多いんだ。でも、最初の1人をどう採用すればよいか迷うよね。募集ルートは日本人の採用とそう違いはないよ。多くは人材紹介会社を使うことになると思うんだけど、外国人を専門とする人材紹介会社が良いだろうね。
【解説】
国内に居住する外国人材を雇用する場合には、日本語能力についての心配が少なく、また、日本の習慣について改めてレクチャーする必要はありませんが、海外の外国人材を募集する場合には、住居の手配から日本語の教育、行政の手続きサポートまで、生活のあらゆることをサポートしてあげる必要があります。
そのような意味では、国内の外国人を雇用するほうが、外国人雇用のスタートとしては難度が低いと言えるでしょう。一方で、海外から招へいする場合と比べて、外国人の側にも就職先の選択肢が多いことを意味しますので、獲得競争は厳しい傾向にあります。外国人から選んでもらえる魅力を企業側が積極的にアピールする必要があります。
海外から招へいする場合は、外国人にとって日本で就職できることだけでメリットになるということも多く、他の会社と条件面を比較されることが少ないので、住居の手配から空港への出迎えまでサポートすべき事柄が多く手間はかかりますが、大人数を確保するのに適していると言えます。ただし、外国人にも転職の自由はありますので、最終的には条件面で外国人従業員に満足してもらえるだけの待遇を与えることが「定着していただく」という観点から必要です。
外国人雇用にあたって外国人を募集するには、企業が外国人に何を求めるのかという点を明確にすることが大切です。日本人の採用でも、新卒採用なのか中途採用なのかによって、採用側が求めるものが異なるのとよく似ています。即戦力を期待するのであれば、社会人経験のない留学生にそれを求めることは困難ですので、海外からの転職者の招へいも多く行われています。
2-1 国内の外国人を募集する
新卒者を採用したい場合には、留学生を募集することになるでしょう。留学生の場合、仕事のスキルは当然低いものの、日本語や日本の習慣に対する理解度が高く、住居の手配や銀行口座の開設の手伝いも必要なく、外国人雇用のスタートとしてはとっつき易いはずです。
募集ルートとしては、民間の人材紹介会社を利用するか、外国人版のハローワークである外国人雇用サービスセンターを利用することになります。日本人の新卒採用と同様、優秀な人材はどうしても民間の人材紹介会社経由で募集することになります。昨今、日本人の新卒者をハローワークで募集する企業が皆無に近いことと同じです。
ホテルのベッドメーキングや弁当工場での勤務、ビル清掃の仕事など単純労働を外国人を雇用して任せたい場合は、これまでは、国内に住む外国人を採用するほかはありませんでした。海外から招へいするには就労ビザを取得しなければならず、2019年4月に特定技能ビザができるまでは、就労ビザの取得の可能性がなかったからです。2019年3月以前は、このような仕事は、永住者や日本人の配偶者、定住者などが担ってきました。
外国人を募集するにあたり、最近は、文字ではなく映像(動画)での企業紹介が増えつつあります。社長自ら会社のビジョンを語ることで、あるいは会社の内部を映像で案内することで、より具体的に会社のイメージを求職中の外国人に伝えることができるからです。
2-2 海外の外国人を募集する
海外から外国人材を採用する場合は、外国人版のハローワークである外国人雇用サービスセンターは使えませんので、民間の人材紹介会社を利用することになります。日本で生活したことがない外国人を迎える場合には、日本の生活を立ち上げるためのサポートがまず必要です。携帯電話や住居の契約、銀行口座の開設、日本語勉強のサポート、行政手続きの履行サポート、場合によっては面接に相手国まで出向くなど、国内に居住する外国人材の採用よりも手間暇がかかることは間違いありません。その代わり、まとまった人数の働き手の確保や、高いスキルをもった即戦力の採用には適しています。
動画での会社紹介は、海外から招へいする場合には、必須のアイテムになりつつあります。国内の外国人は会社に来訪して面接を受ける際に、企業の雰囲気をつかみとることができますが、海外から招へいする場合には、それがなかなかできないので、動画で紹介することが多くなっています。動画はスマートフォンでも撮影できますから、あまり構えずに、気軽に取り組んでみてください。
外国人との面接はどうやったらいいんでしょう?
日本人の面接と同じこともあるし、外国人特有の確認事項もあるよ!
【解説】
3-1 面接で確認したいこと
外国人雇用の面接では、人材の採用である以上、日本人と同じことをまず確認する必要があります。例えば、①外国人が自社の募集に応募した理由、②自己PR、③長所と短所、④学生時代に真剣に取り組んできたこと、⑤これまでに直面した困難とその克服方法、⑥入社後にどんな仕事をしたいのか、⑦ほかに内定の出ている会社はあるのか、⑧求職者からの質問などが典型的な入社面接時の質問事項で、これらは日本人であろうと外国人であろうと変わりません。
一方で、外国人特有の確認事項もあります。①いつ、何の在留資格で来日したのか、②どのような目的で来日したのか、③なぜ日本での就職を希望しているのか、④どれくらいの期間、日本で働きたいのか、⑤日本の社会的な慣習をどの程度理解し、受け入れているのか、⑥宗教上の配慮は必要かどうか、⑦母国の休日と日本の休日とは例えば正月の時期などが一致していないが、大丈夫か、⑧どのようなキャリアパスをイメージしているか、等々です。
すでにある自社の文化に外国人がなじめるのかというスタンスだけでなく、自社が外国人就労者のためにどのようなサポートをする必要があるのか、自社はどのように変われるのかといった観点から、外国人との面接に臨みましょう。どのような環境を整えれば外国人が気持ちよく働けるのかを探る良い機会であることも忘れないでください。
3-2 面接で配慮したいこと
外国人雇用の場合、どうしてもいつまで自社で働いてくれるのかという点に目が行きがちです。そうでなくても外国人は転職によるキャリアアップが常識ですし、いずれは母国に帰るであろうからです。その母国に帰る時期が定年後であれば何ら日本人と変わりがないとしても、例えば入社5年目でやめられてしまったら、せっかく教育して育てた人材を失うことになり、それだったら日本人を採用したいと思うかもしれません。
しかしながら、終身雇用という働き方は、きわめて日本特有のもので、欧米でも中国でも東南アジアでも、終身雇用を前提に就職する文化はありません。日本では「勤め上げる」という言葉があるように、終身雇用で働く人はひとつのことを貫徹した尊敬されるべき人として扱われます。しかしながら外国では、「転職する能力がない、他社から魅力的なオファーをもらえない可哀そうな人」という評価をされることも少なくないのです。
したがって、終身雇用を前提とした外国人とのかかわり方は、あまり成功していない点に留意しましょう。むしろ自社で働くことがあなたのキャリアプランにこのような輝きを与えますというアピールをしていただけると、優秀な外国人材を獲得できるでしょう。
外国人雇用の場合も、内定を出すのですか?
留学生を採用して、4月に入社時期を合わせる場合には、内定を出すよ。実は、大学卒業した学士と専門学校を卒業した専門士には、内定者のためのビザも用意されているよ。
【解説】
4-1 外国人の入学・卒業・入社の時期
留学生が日本の学校に入学する時期は、実はかなりばらつきがあります。日本の学校が、留学生の母国の卒業時期にあわせて、入学日を設定しているからです。卒業してから日をおかずに入学できるようにしていますので、日本語学校などは4月、7月、10月、1月と3箇月おきに入学日を設定しているところも多いです。
入学時期にはばらつきがありますが、逆に卒業の時期は、3月に統一されています。これは、日本の大学への進学や入社が4月であることを考慮してのものです。したがって、多くの日本語学校は、就学期間を1年、1年3か月、1年6か月、1年9か月というように設定しています。
なお留学ビザの期間は、3か月、6か月、1年、1年3か月、2年、2年3か月、3年、3年3か月、4年、4年3か月のいずれかで決定されています。
内定の法的性質は、日本人学生に対するものと同じです。
4-2 内定者のビザとは
留学ビザが切れる直前に内定が出て、4月の入社までに時間がある場合には、内定者のための特定活動ビザを取得することができます。また、学校を卒業後に就職活動のための特定活動ビザを取得していた外国人は、内定をもらったら、内定者のための特定活動ビザに変更する必要があります。
ただしこれらは、大学の卒業者(学士)と専門学校の卒業者(専門士)に限られます。また、対象となるのは「内定後1年以内であって、かつ、卒業後1年6月以内に採用される場合」に限られますのでご注意ください。これに該当しない場合は、いったん母国へ帰国してもらい、再度入社前に就労ビザで呼び寄せるなどすれば対応できます。
外国人学生のあいだで就職活動のためのビザが存在することは広く知られていますが、内定者のためのビザの存在について知らない方も多くいるので、外国人学生に内定を出した際には、特定活動ビザ(待機)への変更を会社が案内していあげると親切です。
この場合、付与される在留資格は特定活動ですが、指定書に記載される活動は、「(会社名)に令和〇年〇月〇日から雇用されることとなっている者が、同日までに行う日常的な活動(収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を除く。)」です。原則として「報酬を受ける活動」は除外されていますが、留学ビザと同様に、資格外活動許可を別途受けることにより留学生と同じく合法的にアルバイトをすることができます。
おかげさまで、よい外国人材をみつけ、自社で働くことを希望してくれています。次は雇用契約ですよね?
そうだね。企業と求職者の希望が合致したら、雇用契約を結ぶところは日本人の採用と同じだよ。この雇用契約書は就労ビザの申請時に入国管理局に提出して審査されるから、入管法の要件チェックだけでなく日本の労働法に違反していないかどうかはくれぐれも確認してね。
【解説】
5-1 通常は日本人と同じ内容でOK
日本の企業と日本で働く外国人のあいだの雇用契約ですから、相手国の法律は関係がなく、純粋に日本の労働法が適用されます。日本の労働法では、日本人と外国人の区別をつけていませんので、結局のところ、日本人と交わすのと同様のものを作成すれば足りることになります。最低賃金や有給休暇の制度なども、日本人と完全に同一です。
ただし、日本語のみで作成すると外国人には分かりづらいですから、外国人の母語又は英語で契約書を作成してあげることが推奨されます。後掲のように厚生労働省が各国語版の「労働条件通知書」を公表しているので参考にしてみてください。
5-2 特定技能ビザは労働法に加え入管法の法定事項があります
一般的な就労ビザの申請で用いる雇用契約書は、上述のとおり、記載項目としては日本の労働法の要求のみをクリアしていれば足りますが、2019年4月から新設された特定技能ビザを申請する際の雇用契約書は、日本の労働法のみならず入管法の法定事項をも盛り込む必要があります。たとえば、外国人が一時帰国を希望した場合や外国人が帰国の旅費を工面できない場合の取り扱いなどがそれです。
この特定技能ビザの申請時に必要な雇用契約書は、入管実務では、「雇用条件書」と呼ばれ、入管から参考様式が提供されています。
とても優秀な外国人材と雇用契約をむすぶことができました。入社されるのが待ち遠しいくらいです。
長く働いてもらえるといいね! 日本の常識は外国人にとっては常識でないし、場合によっては非常識にすらみえることがあるから、日本人よりも念入りに会社のルールを説明しておいたほうが、のちのちのトラブル防止に役立つよ。
【解説】
日本人を採用するときに、事前に就業規則を説明したり、給与明細の控除項目を解説する企業はあまりないですよね? 給与からの控除項目などはある種の社会常識として、説明するまでもないと考えるか、興味があれば自分で調べるだろうというのが多くの会社のスタンスであると思います。
しかしながら、外国人の場合は、日本人の暗黙の了解が通じないので、あらかじめきちんと説明しておく必要があり、これを怠ると、入社後に様々なトラブルが発生しかねません。例えば日本人であれば、給与の支給額から税金や社会保険料が控除されることは一般常識ですが、外国人からしてみれば、年金なんていらないから控除しないでくれという要求があってもおかしくありません。死ぬまで日本で暮らすことが決まっていない外国人にしてみれば、日本の年金なんて支払いたくないと考えてもあながち不当な要求ともいえないでしょう。
ところが、社会保険料の徴収は会社の義務なので、会社としては控除しないという選択肢はありません。したがって、その旨を、事前にきちんと説明して納得してもらう必要があります。
年次有給休暇の制度も、日本人であれば両親がこれらを使っているのでなんとなく制度の存在は分かっているのですが、外国人の場合は、説明してもらえなければ、どのような制度か分かりませんので、きちんと入社前に説明しておきましょう。
6-1 就業規則、給与の控除項目、休日の取り方を説明しよう
就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に作成が義務づけられています(労基法89条)。また、就業規則は、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の方法により、労働者に周知させる義務があります(労基法106条1項)。日本人には「就業規則」の存在はいわば自明のものですが、外国人にとっては自明ではないので、雇用契約書に就業規則の存在を記載しておかないと後々トラブルになりかねません。日本人の採用時に就業規則を「書面で交付する」会社は多くはないと思いますが、外国人採用の場合には、就業規則を書面で交付し、かつ、説明することをお勧めします。
日本人の給与取得者には当たり前の給与天引き。しかし、外国人にとってはけっして当たり前の制度ではありません。額面のお給料から、所得税と住民税が天引きされ、さらに、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料を内訳とする社会保険料が天引きされることを説明しておきましょう。外国人は、一生を日本で暮らすとは限らず、老後は母国で暮らす人が大半です。そうすると厚生年金を老齢厚生年金としてのみ説明すると、そんなの必要ないという反応が返ってきます。厚生年金には老齢年金のほかに、障害年金や遺族年金などが含まれていることを合わせて説明すると納得を得られやすいです。また、厚生年金は帰国後2年以内に請求すれば、母国で脱退一時金を受給できることも説明されると良いでしょう。
6-2 昇格・昇給基準を説明しよう
外国人雇用で重要なのは、外国人が自社で働くことをキャリアプラン全体でどのように位置づけているかについて理解することです。日本人のように終身雇用を前提にキャリアプランを考えている外国人は少数派でしょう。外国人は、あなたの会社でどのようなポジションでどのような仕事をするのかについて明確な説明を欲しています。そして、その仕事について、どのような成果をあげれば、どのような結果(昇格・昇給)が待っているのかについても明確に知りたいと考えています。
そこを明確に伝えてあげることで、外国人のやる気が高まります。逆にそこを曖昧にしておくと、外国人は何を目標にすればよいのか分からず、あなたの会社で働くことに不安を感じるでしょう。それは外国人従業員の定着率に直結します。
6-3 キャリアパスを説明しよう
同じく、外国人雇用ではキャリアパスを明確に伝えることが大切です。日本人の正社員であれば、終身雇用を前提に自らのキャリアパスを会社に委ねる傾向にありますが、外国人はそうではありません。あなたの会社でどのようなスキルが身につくのか、そして次にどのようなステップが用意されているかを明快に知りたいと願っています。
外国人従業員に明確なキャリアパスを示してあげることができれば、外国人従業員は安心して仕事に取り組めるでしょう。
入社した外国人は、日本人と同じように社会保険に加入し、税金を納めるのですよね?
原則はそうだよ。ただ、条約や協定の内容次第では、例外的な取り扱いがなされうるから専門家や行政機関に念のため確認するのが良いね。
【解説】
7-1 社会保険について
多くの外国人の母国にも、母国の社会保険制度があります。そして、社会保険の受給要件は国によりさまざまであるため、来日時に母国の社会保険から脱退してしまうと、将来母国の年金がもらえなかったり、減額されてしまったりといった不利益を被ることがあります。
このため外国人としては母国の社会保険料を支払い続けることが多くありますが、日本でも日本の法律に従って社会保険料を徴収してしまうと、母国と日本とで社会保険料を二重に支払わなければならなくなります。
このため、①両国の年金制度への加入期間を「通算」できるようにすることで、年金受給のために必要な加入期間の要件をみたしやすくし(年金加入期間の通算)、②保険料の二重払いを避けるために、加入すべき制度を二国間で調整する(二重加入の防止)ことを目的として、外国とのあいだで「社会保障協定」が結ばれています。
2019年10月現在は、日本は23か国と協定を署名済みで、うち20か国が発効しています。各協定の詳細は日本年金機構のホームページで確認できます。
7-2 税務について
税金は税法上の「居住者」に対して課されますが、日本と外国人従業員の母国における「居住者」の定義しだいでは、両国から「居住者」として観念されて、両国で課税されることが生じえます。この二重課税を避けるため等を目的として締結されているのが「租税条約」です。2020年6月1日現在、日本は139か国・地位に適用される76条約等を締結しています。日本の租税条約ネットワークについての詳細は、財務省ホームページで確認できます。
外国人雇用にあたって他に何かすべきことはありますか?
これまで海外に住んでいた外国人を招へいする場合は、日本での生活がスムースに運ぶように、会社が何かとサポートするのが普通だよ。
【解説】
皆さんがもし中国やドバイやベトナムで生活することになったら、住居をきちんと借りられる自信がありますか? 銀行口座は開けそうですか? 役所での手続きはできそうですか?
会社の仕事で行くのでしたら、できれば会社にサポートしてほしいですよね?
皆様の会社で採用することになった外国人の方も、同じような不安を抱いています。可能な限り、サポートしてあげましょう。
8-1 住居について
来日そうそうの外国人が自力で住居をみつけ契約することは困難なため、借り上げ社宅を用意してあげるのが通常です。法人名義であればなんなく借りられる物件も、外国人個人で契約しようとしてもなかなか貸してくれなかったりします。それだけでなく、賃貸契約書の内容を本人の母語で確認できることはあまりないので、ご本人は契約書に署名してい良いのかどうか分かりません。日本語の賃貸契約書が問題のない内容であるか確認してあげることも必要でしょう。
社宅を用意する場合は、本人の家賃負担分について、事前に書面で同意をとっておくのがよいでしょう。特定技能ビザの場合は、本人の給与から天引きされる項目はすべて事前説明が必要です。他の就労ビザの場合は法令上の義務とまではされていませんが、トラブル防止のため、これに倣うことをお勧めします。天引きの額以外にも社宅の入退去のルールなどについて、就業規則に盛り込んだり、社宅利用規程を作成して対応する企業が多いです。
決して悪気はないのですが生活習慣が異なるため、何かと近隣住民とのトラブルがおきがちですから、ゴミ出しルールや騒音を出さないことまで、細かいことも教えてあげましょう。
8-2 行政手続きについて
雇用された外国人が来日し、日本の主要空港で在留カードを取得すると、次は住居のある市区町村役場で住民登録をする必要があります。理由なく住民登録を怠って放置していると、在留資格取り消しの対象となり、就労ビザを失う危険があります。かならず、在留カードを確認して、住民登録が行われたかを目で確認しましょう。住民登録が完了すると、在留カードの裏面に、市区町村役場の係員が住所を記載してくれます(自分で記入しても住民票に反映されませんから無意味ですので念のため。)。
住民登録が完了すると、外国人にもマイナンバーが与えられます。外国人のご自宅にマイナンバー「通知カード」が届きますので、その旨を教えてあげましょう。
8-3 銀行口座開設について
銀行は民間企業ですので、銀行口座の開設を望めば必ず開いてくれるというものではなく、銀行の判断で取引したくなければ断られてしまうこともありえます。日本人が個人の口座を開けないことはあまりないはずですが、新設の法人が大手都市銀行に銀行口座を開こうとしても開けないなどという話は時折耳にされるのではないでしょうか? それと似たようなことは起こりえるということです。多くの場合は日本人がつきそって、ご本人が「在留カード」を提示することができれば、口座を開いてくれると思われます。
8-4 子どもの学校について
特定技能1号以外の多くの就労ビザでは、妻子の帯同が許されています。まず、お子さんが日本の公立小中学校に入学するには、お子さん自身が家族滞在などの在留資格で来日し、住民登録をすることが必要です。次に、市区町村の教育委員会に就学申請をします。教育委員会から受け取った就学通知書を校区の学校に持っていき、学校側との面談を経て、実際に通う学校や学年が決まります。
8-5 病院について
日常生活は滞りなく行うことができるレベルの日本語力があっても、ご自身の体調を適切に表現するのは難しく、体調を適切に医師に伝達できないと、治る病気も治らないでしょう。安心のために必要な時に利用できる「医療通訳」サービスを教えてあげる企業が多いようです。
2020年6月現在、新型コロナウイルス感染症に関する水際対策の強化に係る措置 として、多くの国が日本の上陸拒否対象国となっています。この指定がなされている間も「在留資格認定証明書交付申請」自体はすることができますが、その在留資格認定証明書の交付は上陸拒否対象国の指定が解除されるまでは見合されるものとされています。
〇最新の上陸拒否対象国に関する情報
・外務省ホームページ~新型コロナウイルス感染症に関する水際対策の強化に係る措置について
就労ビザの要件をまずクリアできるように、特に雇用契約書の内容に注意しながら準備を進めてていきます。雇用契約書の内容が入管法の基準を満たすことはもちろんのこと、労働基準法の要件も満たしていることが必要です。
申請人の過去の日本への来日回数や、日本に親族がいるかなど、ご本人に確認しなければならないことも多くあります。
日本の招聘人(会社)が、日本の入国管理局に対して在留資格認定証明書の交付の申請をします。無事に許可されると「在留資格認定証明書」を取得することができます。
在留資格認定証明書を受け取ったら、招聘人(会社)はその原本を海外にいる採用した外国人に郵送します。
在留資格認定証明書の有効期限は3か月で、紛失すると再発行がききませんので、その2点はしっかりと頭に入れておきましょう。
原本を送る必要があります。スキャンをメールで送るだけでは足りません。
郵送の方法は、基本的にはEMSで良いと思いますが、国によってはEMSよりもFedexなど民間企業のサービスで送ったほうが良い場合もありますから、
外国人にどの手段で送ってほしいか確認してみましょう。
日本の場合は国(官)のサービスに信頼感がありますが、国によっては官のシステムが腐りきっており、世界にネットワークを持つ多国籍企業のサービスの方がはるかに高品質ということがあります。
郵送に関してはトラブルが起こりがちです。
・ヨーロッパに送ったEMSが、クリスマスシーズンの膨大な郵便物に埋もれてしまい延着した
・EMSで送った在留資格認定証明書が、相手国の空港に到着したところまでは分かっているが、そこから先、行方不明になってしまった(最終的には発見された)
・民間サービスで送った在留資格認定証明書が直行便ではなく、第三国を経由して輸送され、第三国で封があけられていた
等々、油断はなりません。
貴社で働くこととなった外国人は、無事に在留資格認定証明書を受領したら、受領した在留資格認定証明書や顔写真などの書類をそろえて、母国にある日本大使館(又は代理申請機関)に査証(ビザ)の申請をします。
通常は5営業日程度で許可・不許可の結果が出ます。許可されると、パスポートにステッカー上の査証を貼ってもらえます。
外国人が母国にいない場合は、滞在国で査証を申請できるのかのチェックが必要になります。
外国人は査証の貼られた有効なパスポートをもって、日本の空港に降り立ちます。そこで最終的に、日本への入国(正確には上陸)の許否が判断されます。
この上陸の許否の判断をするのが空港にいる入国審査官で、普通はこの段階で上陸拒否になることはあまりないですが、
見落とされていた犯罪歴がこの時点で判明したりすると上陸はできず、乗ってきた飛行機の折り返し便などで母国にとんぼ返りすることになります。
行政書士 佐久間毅(さくま・たけし)
東京都出身。慶應義塾志木高等学校、慶應義塾大学法学部卒。高校在学中に米国コロラド州のイートンでホームステイ。大学在学中は、他大学である上智大学の国際法の権威、故・山本草二教授の授業に通い詰める。大学卒業後は民間の金融機関で8年間を過ごし、現在は東京・六本木でビザ専門のアルファサポート・行政書士事務所を開業。専門は入管法、国籍法。
>>もう迷わない! 特定技能ビザで外国人を招へいするための超・簡単ナビ
2019年4月から、人手不足が深刻な14の業界において、外国人が就労することが可能になる予定です。この記事では、あらたしく作られる在留資格「特定技能」についてわかりやすく解説しています。
国際結婚と配偶者ビザ