電気・電子情報関連産業における在留資格【特定技能ビザ】の活用方法

行政書士 佐久間毅

特定技能 在留資格

1 深刻な電気・電子情報関連産業における人手不足

 

自動車の電動化に伴う電子部品需要の増加等により需要が拡大する中、電気・電子情報関連産業分野に関連する職業分類における有効求人倍率(平成29年度)は2.75 倍となっており、これは産業への就職希望者1人に対して求人数が2.75存在することを意味しています。

当該分野に係る職種の有効求人倍率(平成29 年度)は、例えば、プラスチック製品・製造工3.70 倍、製品包装作業員3.60 倍、金属溶接・溶断工2.50 倍となっている等、深刻な人手不足の状況にあります。

 

2 特定技能2号が認められていない電気・電子情報関連産業

 

電気・電子情報関連産業は、特定技能1号の対象となりましたが、特定技能1号は日本での就労が通算5年に限定されています。したがって、他の就労ビザのように、外国人を長期にわたって例えば定年まで雇用するようなことはできませんので、外国人労働者がどんなに優秀であっても、「後継者」になってもらうことはできません。あくまでも日本人である就業者のサポート役にとどまります。

 

もし今後、電気・電子情報関連産業が在留資格「特定技能2号」の対象になれば、2号は滞在に期限がありませんから、同じ外国人を長期にわたり雇用し後継者にすることもできますが、現在のところ2号の対象は建設業と造船業の二業種にとどまる予定で、電気・電子情報関連産業は含まれていません。

 

3 就労ビザとしての特定技能を申請する際の電気・電子情報関連産業特有の事情

 

技能実習ビザは各電気・電子情報関連産業事業者ではなく事業協同組合が入国管理局に対し申請しますが、特定技能ビザは各電気・電子情報関連産業事業者が個別に入国管理局に申請をすることとなります。この場合、技能実習ビザにおいては事業協同組合の財務諸表の中身が問われるのに対して、特定技能ビザの場合は、各電気・電子情報関連産業事業者の経営状況が審査対象となります。したがって、零細の電気・電子情報関連産業事業者さんでは、入国管理局の審査に耐えられないケースがあるかもしれません。

特定技能ビザに限らず一般に、就労ビザは中小企業よりも上場企業など大企業の方が審査は通りやすいので、比較的慎重な申請が求められる業界となるでしょう。

 

4 産業機械製造業技能実習から特定技能ビザへの移行

 

2018年11月現在、電気・電子情報関連産業は技能実習2号の対象となっています。そして、この技能実習の修了者は、特定技能1号へ移行することができます。

そうすると、技能実習での3年と特定技能1号での5年、通算8年間、日本で電気・電子情報関連産業に従事できることとなります。

 

在留資格 特定技能
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5 海外から産業機械製造業従事者を特定技能ビザで招聘する

 

特定技能ビザが導入された直後の数年間は、電気・電子情報関連産業技能実習生からの移行組が多くを占めるとみられていますが、その後、少しずつ海外から直接労働者を招聘することも行われるようになるでしょう。

この場合は、来日の前提として本国で技能試験に合格しなければなりませんが、政府は現在、数か国での実施を検討しています。特定技能1号は本来は技能実習とは関係のない就労ビザですから、本来労働者の国籍は問わないのですが、特定技能試験が当初この数か国でしか行われないということになると、海外から招へいする場合は事実上はこの数か国からの受入れが中心となるでしょう。

 

在留資格 特定技能
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2020年6月現在、新型コロナウイルス感染症に関する水際対策の強化に係る措置 として、多くの国が日本の上陸拒否対象国となっています。この指定がなされている間も「在留資格認定証明書交付申請」自体はすることができますが、その在留資格認定証明書の交付は上陸拒否対象国の指定が解除されるまでは見合されるものとされています。

 

〇最新の上陸拒否対象国に関する情報

 

外務省ホームページ~新型コロナウイルス感染症に関する水際対策の強化に係る措置について

 

 

6 採用時期をずらすことで労働力を継続的に確保する

電気・電子情報関連産業は特定技能2号の対象業種ではないことから、5年後には必ず労働者が帰国します。それを見込んで時期をずらして複数名を雇用することで、継続的に労働力を確保することができます。

 

在留資格 特定技能
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7  電気・電子情報関連産業分野における特定技能ビザの運用方針のポイント

 

以下では、2018年12月25日に閣議決定された「電気・電子情報関連産業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」のポイントを解説します。

 

7-1  電気・電子情報関連産業における受入上限人数について

電気・電子情報関連産業分野における特定技能ビザによる外国人就労者の受け入れ見込みは最大4700人で、これが上限となります。

政府の試算では、電気・電子情報関連産業分野では向こう5年間で6万2千人の人手不足が生じるため、わずか4700人の受け入れでは焼け石に水との指摘もあり、事業者間で限られた外国人枠の奪い合いになる可能性が高いです。もし在留資格「特定技能」をもつ外国人従業員の雇用をお考えなのであれば、様子見されるよりも早めの着手が必要でしょう。

 

7-2  在留資格「特定技能1号」を取得できる飲食料品製造業における外国人の基準について

特定技能1号の在留資格を取得できる可能性がある者は、以下の試験の合格者又は電気・電子情報関連産業分野の第2号技能実習を終了した者

(1)技能試験  「製造分野特定技能1号評価試験(仮称)」

(2)日本語試験 「日本語能力判定テスト(仮称)」又は「日本語能力試験(N4以上)」

 

【コメント】

「製造分野特定技能1号評価試験(仮称)」は、①機械加工、②金属プレス加工、③工場板金、④めっき、⑤仕上げ、⑥機械保全、⑦電子機器組立て、⑧電気機器組立て、⑨プリント配線板製造、⑩プラスチック成形、⑪塗装、⑫溶接、⑬工業包装の13分野に分かれています。

 

日本語能力試験はN5からN1までの5段階評価で、N4は下から2番目のレベルです。「基本的な日本語を理解することができる」レベルで、「日常的な場面で、ややゆっくりと話される会話であれば、内容がほぼ理解できる」レベルを指します。日本語学校に通っている留学生などであれば比較的簡単にクリアできるでしょう。

 

7-3  在留資格「特定技能1号」を取得した外国人がすることができる業務

在留資格「特定技能1号」の外国人が従事できる職務は、合格した試験区分に対応しています。

 

機械加工:

指導者の指示を理解し又は自らの判断により、旋盤、フライス盤、ボール盤等の各種工作機械や切削工具を用いて金属材料等を加工する作業に従事

②金属プレス加工:

指導者の指示を理解し又は自らの判断により、金型を用いて金属材料にプレス機械で荷重を加えて、曲げ、成形、絞り等を行い成形する作業に従事

③工場板金:

指導者の指示を理解し又は自らの判断により、各種工業製品に使われる金属薄板の加工・組立てを行う作業に従事

④めっき:

指導者の指示を理解し又は自らの判断により、腐食防止等のため金属等の材料表面に薄い金属を被覆する作業に従事

⑤仕上げ:

指導者の指示を理解し又は自らの判断により、手工具や工作機械により部品を加工・調整し、精度を高め、部品の仕上げ及び組立てを行う作業に従事

⑥機械保全:

指導者の指示を理解し又は自らの判断により、工場の設備機械の故障や劣化を予防し、機械の正常な運転を維持し保全する作業に従事

⑦電子機器組立て:

指導者の指示を理解し又は自らの判断により、電子機器の組立て及びこれに伴う修理を行う作業に従事

⑧電気機器組立て:

指導者の指示を理解し又は自らの判断により、電気機器の組立てや、それに伴う電気系やメカニズム系の調整や検査を行う作業に従事

⑨プリント配線板製造:

指導者の指示を理解し又は自らの判断により、半導体等の電子部品を配列・接続するためのプリント配線板を製造する作業に従事

⑩プラスチック成形:

指導者の指示を理解し又は自らの判断により、プラスチックへ熱と圧力を加える又は冷却することにより所定の形に成形する作業に従事)

⑪塗装:

指導者の指示を理解し又は自らの判断により、塗料を用いて被塗装物を塗膜で覆う作業に従事

⑫溶接:

指導者の指示を理解し又は自らの判断により、熱又は圧力若しくはその両者を加え部材を接合する作業に従事

⑬工業包装:

指導者の指示を理解し又は自らの判断により、工業製品を輸送用に包装する作業に従事

 

7-4  特定技能1号をもつ外国人を雇用する形態

フルタイムの直接雇用に限られ、派遣会社からの派遣は受け入れできません。

 

7-4  特定技能1号をもつ外国人を雇用する会社に求められる条件

全産業に共通の条件の他、電気・電子情報関連産業の会社(特定技能所属機関)に特に求められる主たる条件は以下のとおりです。

なお、全産業に共通の条件については特定技能ビザ・総論をご参照ください。

 

1 製造業外国人材受入れ協議会(仮称)の構成員になること

 

 

■この記事を書いた人

行政書士 佐久間毅(さくま・たけし)

東京都出身。慶應義塾志木高等学校慶應義塾大学法学部卒。高校在学中に米国コロラド州のイートンでホームステイ。大学在学中は、他大学である上智大学の国際法の権威、故・山本草二教授の授業に通い詰める。大学卒業後は民間の金融機関で8年間を過ごし、現在は東京・六本木でビザ専門のアルファサポート・行政書士事務所を開業。専門は入管法、国籍法。


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