飲食料品製造業における在留資格【特定技能ビザ】の活用方法

行政書士 佐久間毅

特定技能 在留資格

1 深刻な飲食料品製造業における人手不足

 

飲食料品製造業は、事業所数及び従業者数が製造業の中で第1位であり、労働市場において大きなボリュームを占める業界です。そして飲食料品製造業の有効求人倍率は平成29年度には2.78倍となっています。

これは飲食料品製造業への就職希望者1人に対して就職先が2.78あることを意味し、飲食料品製造業の事業者間において人材の奪い合いが起きていることを意味します。

2019年の食品衛生法改正により、2020年6月までに全ての飲食料品製造業者にHACCPに沿った衛生管理の制度化への対応が求められ、今後、飲食料品製造現場においてHACCPを含む衛生管理の知識を有する人材を確保することが急務であることから、人材不足に拍車がかかっています。

 

2 特定技能2号が認められていない農業

 

飲食料品製造業は、特定技能1号の対象となりましたが、特定技能1号は日本での就労が通算5年に限定されています。したがって、他の就労ビザのように、外国人を長期にわたって例えば定年まで雇用するようなことはできませんので、外国人労働者がどんなに優秀であっても、「後継者」になってもらうことはできません。あくまでも日本人である就業者のサポート役にとどまります。

 

もし今後、飲食料品製造業が在留資格「特定技能2号」の対象になれば、2号は滞在に期限がありませんから、同じ外国人を長期にわたり雇用し後継者にすることもできますが、現在のところ2号の対象は建設業と造船業の二業種にとどまる予定で、飲食料品製造業は含まれていません。

 

3 就労ビザとしての特定技能を申請する際の飲食料品製造業特有の事情

 

技能実習ビザは各飲食料品製造業者ではなく事業協同組合が入国管理局に対し申請しますが、特定技能ビザは各飲食料品製造業者が個別に入国管理局に申請をすることとなります。この場合、技能実習ビザにおいては事業協同組合の財務諸表の中身が問われるのに対して、特定技能ビザの場合は、各飲食料品製造業者の経営状況が審査対象となります。したがって、零細の飲食料品製造業者さんでは、入国管理局の審査に耐えられないケースがあるかもしれません。

特定技能ビザに限らず一般に、就労ビザは中小企業よりも上場企業など大企業の方が審査は通りやすいので、比較的慎重な申請が求められる業界となるでしょう。

 

4 飲食料品製造業技能実習から特定技能ビザへの移行

 

2018年11月現在、飲食料品製造業は技能実習2号の対象となっています。そして、この技能実習の修了者は、特定技能1号へ移行することができます。

そうすると、技能実習での3年と特定技能1号での5年、通算8年間、日本で飲食料品製造業に従事できることとなります。

 

在留資格 特定技能
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5 海外から飲食料品製造業従事者を特定技能ビザで招聘する

 

特定技能ビザが導入された直後の数年間は、飲食料品製造業技能実習生からの移行組が多くを占めるとみられていますが、その後、少しずつ海外から直接労働者を招聘することも行われるようになるでしょう。

この場合は、来日の前提として本国で技能試験に合格しなければなりませんが、政府は現在、数か国での実施を検討しています。特定技能1号は本来は技能実習とは関係のない就労ビザですから、本来労働者の国籍は問わないのですが、特定技能試験が当初この数か国でしか行われないということになると、海外から招へいする場合は事実上はこの7か国からの受入れが中心となるでしょう。

なお、「飲食料品製造業技能測定試験(仮称)」は国内においても実施される予定で、全国10か所程度で実施されます。

 

在留資格 特定技能
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2020年6月現在、新型コロナウイルス感染症に関する水際対策の強化に係る措置 として、多くの国が日本の上陸拒否対象国となっています。この指定がなされている間も「在留資格認定証明書交付申請」自体はすることができますが、その在留資格認定証明書の交付は上陸拒否対象国の指定が解除されるまでは見合されるものとされています。

 

〇最新の上陸拒否対象国に関する情報

 

外務省ホームページ~新型コロナウイルス感染症に関する水際対策の強化に係る措置について

 

 

6 採用時期をずらすことで労働力を継続的に確保する

飲食料品製造業は特定技能2号の対象業種ではないことから、5年後には必ず労働者が帰国します。それを見込んで時期をずらして複数名を雇用することで、継続的に労働力を確保することができます。

 

在留資格 特定技能
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7  飲食料品製造業分野における特定技能ビザの運用方針のポイント

 

以下では、2018年12月25日に閣議決定された「飲食料品製造業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」のポイントを解説します。

 

7-1  飲食料品製造業における受入上限人数について

飲食料品製造業分野における特定技能ビザによる外国人就労者の受け入れ見込みは最大3万4千人で、これが上限となります。

政府の試算では、飲食料品製造業分野では向こう5年間で7万3千人の人手不足が生じるため、3万4千人の受け入れでは焼け石に水との指摘もあり、事業者間で限られた外国人枠の奪い合いになる可能性が高いです。もし在留資格「特定技能」をもつ外国人従業員の雇用をお考えなのであれば、様子見されるよりも早めの着手が必要でしょう。

 

7-2  在留資格「特定技能1号」を取得できる飲食料品製造業における外国人の基準について

特定技能1号の在留資格を取得できる可能性がある者は、以下の試験の合格者又は飲食料品製造業分野の第2号技能実習を終了した者

(1)技能試験  「飲食料品製造業技能測定試験(仮称)」

(2)日本語試験 「日本語能力判定テスト(仮称)」又は「日本語能力試験(N4以上)」

 

【コメント】

日本語能力試験はN5からN1までの5段階評価で、N4は下から2番目のレベルです。「基本的な日本語を理解することができる」レベルで、「日常的な場面で、ややゆっくりと話される会話であれば、内容がほぼ理解できる」レベルを指します。日本語学校に通っている留学生などであれば比較的簡単にクリアできるでしょう。

 

7-3  在留資格「特定技能1号」を取得した外国人がすることができる業務

飲食料品製造業全般、飲食料品の製造・加工、安全衛生

 

【コメント】

「飲食料品」に酒類は含まれないものとされていますのでご注意ください。

 

7-4  特定技能1号をもつ外国人を雇用する形態

フルタイムの直接雇用に限られ、派遣会社からの派遣は受け入れできません。

 

7-4  特定技能1号をもつ外国人を雇用する会社に求められる条件

全産業に共通の条件の他、飲食料品製造業の会社(特定技能所属機関)に特に求められる主たる条件は以下のとおりです。

なお、全産業に共通の条件については在留資格「特定技能」総論をご参照ください。

 

1 食品産業特定技能協議会(仮称)の構成員になること

 

 

■この記事を書いた人

行政書士 佐久間毅(さくま・たけし)

東京都出身。慶應義塾志木高等学校慶應義塾大学法学部卒。高校在学中に米国コロラド州のイートンでホームステイ。大学在学中は、他大学である上智大学の国際法の権威、故・山本草二教授の授業に通い詰める。大学卒業後は民間の金融機関で8年間を過ごし、現在は東京・六本木でビザ専門のアルファサポート・行政書士事務所を開業。専門は入管法、国籍法。


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