ビルクリーニング業における在留資格【特定技能ビザ】の活用方法

行政書士 佐久間毅

在留資格 特定技能

1 深刻なビルクリーニング業における人手不足

 

ビルクリーニング業界においては、建築物衛生法の適用対象となる特定建築物が年々増加するなかで、ビル・建物清掃員の有効求人倍率は平成29年度には2.95倍となっています。

これはビル・建物清掃員の就職希望者1人に対して就職先が2.95あることを意味し、ビルクリーニング業の事業者間において人材の奪い合いが起きていることを意味します。

人手不足によってビルクリーニングが適切に行われなくなれば、建築物の衛生状態が悪化し、ビルの利用者の健康に影響を及ぼすことから、喫緊の対策が求められています。

 

2 特定技能2号が認められていないビルクリーニング業

 

ビルクリーニング業は、特定技能1号の対象となりましたが、特定技能1号は日本での就労が通算5年に限定されています。したがって、他の就労ビザのように、外国人を長期にわたって例えば定年まで雇用するようなことはできませんので、外国人労働者がどんなに優秀であっても、定年まで勤めてもらうことはできません。

 

もし今後、ビルクリーニング業が在留資格「特定技能2号」の対象になれば、2号は滞在に期限がありませんから、同じ外国人を長期にわたり雇用することもできますが、現在のところ2号の対象は建設業と造船業の二業種にとどまる予定で、ビルクリーニング業は含まれていません。

 

3 就労ビザとしての特定技能を申請する際のビルクリーニング業特有の事情

 

技能実習ビザは各ビルクリーニング業者ではなく事業協同組合が入国管理局に対し申請しますが、特定技能ビザは各ビルクリーニング業者が個別に入国管理局に申請をすることとなります。この場合、技能実習ビザにおいては事業協同組合の財務諸表の中身が問われるのに対して、特定技能ビザの場合は、各ビルクリーニング業者の経営状況が審査対象となります。したがって、小規模のビルクリーニング業者さんでは、入国管理局の審査に耐えられないケースがあるかもしれません。

特定技能ビザに限らず一般に、就労ビザは個人事業主よりも法人の方が、中小企業よりも大企業のほうが審査は通りやすいので、比較的慎重な申請が求められる業界となるでしょう。

建設業界における特定技能外国人の雇用は、建設業許可を受けている相応の規模の建設会社が対象とされており、建設業許可を受けていない小規模事業者は受入対象から外されています。そのことの意味を、クリーニング業界の会社様がビザ申請をする際もよく理解する必要があるでしょう。なお、ビルクリーニング業界においても、都道府県知事より、建築物衛生法の「建築物清掃業」又は「建築物環境衛生総合管理業」の登録を受けていることが受け入れ企業の条件とされています。

 

4 技能実習(ビルクリーニング)から特定技能ビザへの移行

 

2018年11月現在、ビルクリーニング業は技能実習2号の対象業種となっています。

技能実習2号の修了者が特定技能1号へ移行する場合には、技能実習での3年と特定技能1号での5年、通算8年間、日本でビルクリーニング業に従事できることとなります。

 

在留資格 特定技能
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5 海外からビルクリーニング従事者を特定技能ビザで招聘する

 

技能実習生を受け入れるのではなく、海外から直接、特定技能外国人を招聘することも可能です。

この場合は、来日の前提として本国で後述する技能試験に合格しなければなりません。特定技能1号は技能実習とは関係のない就労ビザですから、本来労働者の国籍は問わないのですが、ビルクリーニング業の技能試験もごく限られた国でしか行われないということになると、世界のあらゆる国籍のかたと自由に雇用契約を結んで招聘することは事実上難しくなる可能性があります。

 

在留資格 特定技能
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2020年6月現在、新型コロナウイルス感染症に関する水際対策の強化に係る措置 として、多くの国が日本の上陸拒否対象国となっています。この指定がなされている間も「在留資格認定証明書交付申請」自体はすることができますが、その在留資格認定証明書の交付は上陸拒否対象国の指定が解除されるまでは見合されるものとされています。

 

〇最新の上陸拒否対象国に関する情報

 

外務省ホームページ~新型コロナウイルス感染症に関する水際対策の強化に係る措置について

 

 

6 採用時期をずらすことで労働力を継続的に確保する

ビルクリーニング業は特定技能2号の対象業種ではないことから、5年後には必ず従業者が帰国します。それを見込んで時期をずらして複数名を雇用することで、継続的に労働力を確保することができます。

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7 ビルクリーニング業分野における特定技能ビザの運用方針のポイント

 

以下では、2018年12月25日に閣議決定された「ビルクリーニング分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」のポイントを解説します。

 

7-1  ビルクリーニング業における受入上限人数について

ビルクリーニング業分野における特定技能ビザによる外国人就労者の受け入れ見込みは最大3万7千人で、これが上限となります。

政府の試算では、ビルクリーニング業分野では向こう5年間で9万人の人手不足が生じるため、3万7千人程度の受け入れでは焼け石に水との指摘もあり、事業者間で限られた外国人枠の奪い合いになる可能性が高いです。もし在留資格「特定技能」をもつ外国人従業員の雇用をお考えなのであれば、様子見されるよりも早めの着手が必要でしょう。

 

7-2  在留資格「特定技能1号」を取得できるビルクリーニング業における外国人の基準について

特定技能1号の在留資格を取得できる可能性がある者は、以下の試験の合格者又はビルクリーニング分野の第2号技能実習を終了した者

(1)技能試験  「ビルクリーニング分野特定技能1号評価試験」

(2)日本語試験 「日本語能力判定テスト(仮称)」又は「日本語能力試験(N4以上)」

 

【コメント】

日本語能力試験はN5からN1までの5段階評価で、N4は下から2番目のレベルです。「基本的な日本語を理解することができる」レベルで、「日常的な場面で、ややゆっくりと話される会話であれば、内容がほぼ理解できる」レベルを指します。日本語学校に通っている留学生などであれば比較的簡単にクリアできるでしょう。

 

7-3  在留資格「特定技能1号」を取得した外国人がすることができる業務

建築物内部の清掃

 

【コメント】

「ビルクリーニング分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」においては、建築物の内部のみが対象とされており、建物の外部の清掃は含まれていません。

 

7-4  特定技能1号をもつ外国人を雇用する会社に求められる条件

全産業に共通の条件の他、ビルクリーニング業の会社(特定技能所属機関)に特に求められる主たる条件は以下のとおりです。

なお、全産業に共通の条件については特定技能ビザ・総論をご参照ください。 

 

1 都道府県知事より「建築物清掃業」又は「建築物環境衛生総合管理業」の登録を受けたものであること

2 ビルクリーニング分野特定技能協議会(仮称)の構成員となること

 

7-5 特定技能1号をもつ外国人を雇用する形態

フルタイムの直接雇用に限られ、派遣会社からの派遣は受け入れできません。

 

■この記事を書いた人

行政書士 佐久間毅(さくま・たけし)

東京都出身。慶應義塾志木高等学校慶應義塾大学法学部卒。高校在学中に米国コロラド州のイートンでホームステイ。大学在学中は、他大学である上智大学の国際法の権威、故・山本草二教授の授業に通い詰める。大学卒業後は民間の金融機関で8年間を過ごし、現在は東京・六本木でビザ専門のアルファサポート・行政書士事務所を開業。専門は入管法、国籍法。


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