建設業における在留資格【特定技能ビザ】の活用方法

行政書士 佐久間毅

在留資格 特定技能

1 総説

 

建設業界においては、①近年の建設投資の減少によって建設会社の経営が悪化するなどしたことにより建設技能労働者の離職が進んだこと、②団塊の世代など建設技能労働者の高齢化が進み、高齢者が定年などにより仕事を辞めていること、③建設業界の給与面や待遇などの改善が進んでいないことから、若年層が就職を避けるようになっていること、という3つの要因により、深刻な人手不足に陥っています。

 

このような建設業界の構造的な人手不足に加えて、2020年までは東京オリンピック・パラリンピックの関連施設の短期的な建設需要があります。

オリンピック関連の緊急の労働力不足に対応するため、政府は建設分野の技能実習を終了した外国人を、在留資格「特定活動」で引き続き国内での仕事に従事することを可能にする措置をとってきました(この措置は2019年4月以降、特定技能1号に移行して終了予定)。

 

今般、2019年4月に在留資格「特定技能」という新しい在留資格を導入し、人手不足の状況にある建設業界を含めた14業種に対して外国人の就労が解禁される予定です。在留資格「特定技能」は就労ビザであることから、技能実習を経なくても、雇用契約を結べば即戦力として直接海外から招聘することができます。技能実習生は15か国からの受入に限定されていましたが、特定技能1号は国籍を問わない点が特筆に値します(ただし、試験実施国の関係で理論上ではなく事実上の制約あり。)。

 

これまで大企業でない限り事業協同組合を通じてしか技能実習生を受け入れることができず、その後の在留資格「特定活動」も技能実習の修了者しか資格がありませんでしたが、今後は建設労働者の受け入れに、これまでとは比べものにならないほど使い勝手の良いルートが設けられることとなりました。

現在技能実習生を受け入れている企業はもとより、技能実習のスキームそのものが面倒であったり国籍が限定されていることなどが理由でこれまで受け入れに躊躇してきた企業からも熱い視線が注がれており、東京のアルファサポート行政書士事務所にも多くのご依頼のご相談が寄せられています。

 

2 技能実習からの移行による特定技能ビザの活用

 

特定技能1号の導入後数年間は、技能実習からの移行組が特定技能ビザ保有者の多くを占めるとみられています。特定技能1号はあたらしい在留資格なので、新規に海外から招聘される人数は、技能実習から移行する人数よりも、当初は少なくなる見込みです。しかしながら長期のスパンでみると、まず技能実習生として受け入れてその後特定技能へと移行するグループよりも、海外から直接招聘されるグループの方が多数派となるでしょう。技能実習はそもそも就労を本来の目的としておらず「国際貢献」のためのスキームであり、雇用主と従業員以外に事業協同組合や外国人技能実習機構など多くの当事者が関与するので受入企業にとっては使い勝手が悪いからです。

ただし技能実習2号移行対象職種のすべてが特定技能1号に受け皿があるわけではありませんので、その点ご注意ください。また、特定技能外国人を受入れることができる企業は、建設業法3条の許可を受けている企業に限られます。

 

特定技能 在留資格
©アルファサポート行政書士事務所作成、無断利用、無断転載を禁ずる

3 海外からの直接招聘による特定技能ビザの活用

 

海外から建設労働者を直接招へいするためには、その労働者が特定技能試験に合格をする必要があります。政府は、建設分野の技能実習生の受入実績をみながら、この試験の実施国を選定する予定です。そうすると、就労ビザである特定技能ビザは、理論的には労働者の国籍を問わないはずですが、事実上は、10か国に満たない試験実施国から招聘することになる可能性があります。

技能実習2号移行対象職種ではないが特定技能ビザの対象とされている建設分野は、トンネル推進工土工電気通信鉄筋継手の4分野です。これら職種においては、技能試験合格者を海外から直接招へいすることとなります。

 

特定技能 在留資格
©アルファサポート行政書士事務所作成、無断利用、無断転載を禁ずる

2020年6月現在、新型コロナウイルス感染症に関する水際対策の強化に係る措置 として、多くの国が日本の上陸拒否対象国となっています。この指定がなされている間も「在留資格認定証明書交付申請」自体はすることができますが、その在留資格認定証明書の交付は上陸拒否対象国の指定が解除されるまでは見合されるものとされています。

 

〇最新の上陸拒否対象国に関する情報

 

外務省ホームページ~新型コロナウイルス感染症に関する水際対策の強化に係る措置について

 

 

4 建設業分野における特定技能ビザの運用方針のポイント

 

以下では、2018年12月25日に閣議決定された「建設業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」のポイントを解説します。

 

4-1  建設業における受入上限人数について

建設業分野における特定技能1号ビザによる外国人就労者の受け入れ見込みは最大4万人で、これが上限となります。

政府の試算によれば建設業分野では向こう5年間で21万人の人手不足が生じるため、4万人程度の受け入れでは焼け石に水との指摘もあり、事業者間で限られた外国人枠の奪い合いになる可能性が高いです。もし在留資格「特定技能」をもつ外国人従業員の雇用をお考えなのであれば、様子見されるよりも早めの着手が必要でしょう。

 

4-2   在留資格「特定技能1号」を取得できる建設業における外国人の基準について

特定技能1号の在留資格を取得できる可能性がある者は、以下の試験の合格者となります。

(1)技能試験  

   職種1:「建設分野特定技能1号評価試験(仮称)(型枠施工)」又は技能検定3級(型枠施工)

   職種2:「建設分野特定技能1号評価試験(仮称)(左官)」又は技能検定3級(左官)

   職種3:「建設分野特定技能1号評価試験(仮称)(コンクリート圧送)

   職種4:「建設分野特定技能1号評価試験(仮称)(トンネル推進工)

   職種5:「建設分野特定技能1号評価試験(仮称)(建設機械施工)

   職種6:「建設分野特定技能1号評価試験(仮称)(土工)

   職種7:「建設分野特定技能1号評価試験(仮称)(屋根ふき)」又は技能検定3級(かわらぶき)

   職種8:「建設分野特定技能1号評価試験(仮称)(電気通信)

   職種9:「建設分野特定技能1号評価試験(仮称)(鉄筋施工)」又は技能検定3級(鉄筋施工)

   職種10:「建設分野特定技能1号評価試験(仮称)(鉄筋継手)

   職種11:「建設分野特定技能1号評価試験(仮称)(内装仕上げ)」又は技能検定3級(内装仕上げ施工)

 

(2)日本語試験 「日本語能力判定テスト(仮称)」又は「日本語能力試験(N4以上)」

 

4-3   在留資格「特定技能2号」を取得できる建設業における外国人の基準について

特定技能2号の在留資格を取得できる可能性がある者は、以下の(1)の試験の合格者で、(2)の実務要件も満たす者となります。

 

(1)技能試験  

   職種1:「建設分野特定技能2号評価試験(仮称)(型枠施工)」又は技能検定1級(型枠施工)

   職種2:「建設分野特定技能2号評価試験(仮称)(左官)」又は技能検定1級(左官)

   職種3:「建設分野特定技能2号評価試験(仮称)(コンクリート圧送)」又は技能検定1級(コンクリート圧送施工)

   職種4:「建設分野特定技能2号評価試験(仮称)(トンネル推進工)

   職種5:「建設分野特定技能2号評価試験(仮称)(建設機械施工)

   職種6:「建設分野特定技能2号評価試験(仮称)(土工)

   職種7:「建設分野特定技能2号評価試験(仮称)(屋根ふき)」又は技能検定1級(かわらぶき)

   職種8:「建設分野特定技能2号評価試験(仮称)(電気通信)

   職種9:「建設分野特定技能2号評価試験(仮称)(鉄筋施工)」又は技能検定1級(鉄筋施工)

   職種10:「建設分野特定技能2号評価試験(仮称)(鉄筋継手)

   職種11:「建設分野特定技能2号評価試験(仮称)(内装仕上げ)」又は技能検定1級(内装仕上げ施工、表装)

 

(2)実務経験 建設現場において複数の建設技能者を指導しながら作業に従事し、工程を管理する者(班長)としての実務経験

 

4-4  在留資格「特定技能1号」を取得した外国人がすることができる業務

在留資格「特定技能1号」の外国人が従事できる職務は、合格した試験区分に対応しています。

 

(型枠施工)

指導者の指示・監督を受けながらの、コンクリートを打ち込む型枠の製作、加工、組立て又は解体の作業

(左官)

指導者の指示・監督を受けながらの、墨出し作業、各種下地に応じた塗り作業(セメントモルタル、石膏プラスター、既調合モルタル、漆喰など)

(コンクリート)

指導者の指示・監督を受けながらの、コンクリート等をコンクリートポンプを用いて構造物の所定の型枠内等に圧送・配分する作業

(トンネル推進工)

指導者の指示・監督を受けながらの、地下等を掘削し管きょを構築する作業

(建設機械施工)

指導者の指示・監督を受けながらの、建設機械を運転・操作し、押土・整地、積込み、掘削、締固め等の作業

(土工)

指導者の指示・監督を受けながらの、掘削、埋め戻し、盛り土、コンクリート打込み等の作業

(屋根ふき)

指導者の指示・監督を受けながらの、下葺き材の施工や瓦等の材料を用いて屋根をふく作業

(電気通信)

指導者の指示・監督を受けながらの、通信機器の設置、通信ケーブルの敷設等の電気通信工事の作業

(鉄筋施工)

指導者の指示・監督を受けながらの、鉄筋加工・組立ての作業

(鉄筋継手)

指導者の指示・監督を受けながらの、鉄筋の溶接継手、圧接継手の作業

(内装仕上げ)

<内装仕上げ>指導者の指示・監督を受けながらの、プラスチック系床仕上げ工事、カーペット系床仕上げ工事、鋼製下地工事、ボード仕上げ工事、カーテン工事の作業

<表装>指導者の指示・監督を受けながらの、壁紙下地の調整、壁紙の張付け等の作業

 

 

4-5  在留資格「特定技能2号」を取得した外国人がすることができる業務

在留資格「特定技能2号」の外国人が従事できる職務は、合格した試験区分に対応しています。

 

(型枠施工)

複数の建設技能者を指導しながら、コンクリートを打ち込む型枠の製作、加工、組立て又は解体の作業に従事し、工程を管理

(左官)

複数の建設技能者を指導しながら、墨出し作業、各種下地に応じた塗り作業(セメントモルタル、石膏プラスター、既調合モルタル、漆喰など)に従事し、工程を管理

(コンクリート)

複数の建設技能者を指導しながら、コンクリート等をコンクリートポンプを用いて構造物の所定の型枠内等に圧送・配分する作業に従事し、工程を管理

(トンネル推進工)

複数の建設技能者を指導しながら、地下等を掘削し管きょを構築する作業に従事し、工程を管理

(建設機械施工)

複数の建設技能者を指導しながら、建設機械を運転・操作し、押土・整地、積込み、掘削、締固め等の作業に従事し、工程を管理

(土工)

複数の建設技能者を指導しながら、掘削、埋め戻し、盛り土、コンクリート打込み等の作業に従事し、工程を管理

(屋根ふき)

複数の建設技能者を指導しながら、下葺き材の施工や瓦等の材料を用いて屋根をふく作業に従事し、工程を管理

(電気通信)

複数の建設技能者を指導しながら、通信機器の設置、通信ケーブルの敷設等の電気通信工事の作業に従事し、工程を管理

(鉄筋施工)

複数の建設技能者を指導しながら、鉄筋加工・組立ての作業に従事し、工程を管理

(鉄筋継手)

複数の建設技能者を指導しながら、鉄筋の溶接継手、圧接継手の作業に従事し、工程を管理

(内装仕上げ)

<内装仕上げ>複数の建設技能者を指導しながら、プラスチック系床仕上げ工事、カーペット系床仕上げ工事、鋼製下地工事、ボード仕上げ工事、カーテン工事の作業に従事し、工程を管理

<表装>複数の建設技能者を指導しながら、壁紙下地の調整、壁紙の張付け等の作業に従事し、工程を管理

 

4-6  建設業者団体及び元請企業に対して課される条件

【建設業者団体の義務】

建設業者団体は、建設分野における外国人の適正かつ円滑な受入れを実現するため、共同して以下の取組を実施する団体を設けること。

・建設分野における特定技能外国人の適正かつ円滑な受入れの実現に向けた共同ルールの策定及び遵守状況の確認

・建設分野特定技能1号評価試験(仮称)(以下「試験」という。)の実施に係る建設業者団体間の調整

・海外の現地機関との調整、試験場所の確保、受験者の募集、試験の実施等

・試験合格者及び試験免除者の就職先の斡旋・転職支援等

【元請企業の義務】

元請企業は、特定技能所属機関が下請企業である場合、特定技能所属機関が受け入れている特定技能外国人の在留・就労の資格及び従事の状況(就労場所、従事させる業務の内容、従事させる期間)について確認すること。

 

4-7  特定技能外国人を雇用する会社(特定技能所属機関)に対して課される条件

全産業に共通の条件の他、外国人を雇用する建設会社(特定技能所属機関)に特に求められる条件は以下の通りです。

なお、全産業に共通の条件については在留資格「特定技能」総論をご参照ください。

 

建設業法第3条の許可を受けていること。

② 国内人材確保の取組を行っていること。

③ 1号特定技能外国人に対し、同等の技能を有する日本人が従事する場合と同等以上の報酬額を安定的に支払い、技能習熟に応じて昇給を行う契約を締結していること。

④ 1号特定技能外国人に対し、雇用契約を締結するまでの間に、当該契約に係る重要事項について、母国語で書面を交付して説明すること。

⑤ 当該機関及び受け入れる特定技能外国人を建設キャリアアップシステムに登録すること。

⑥ 外国人の受入れに関するア①の団体(当該団体を構成する建設業者団体を含む。)に所属すること。

特定技能1号の在留資格で受け入れる外国人の数特定活動の在留資格で受け入れる外国人外国人建設就労者)の数の合計が、特定技能所属機関の常勤の職員(外国人技能実習生、外国人建設就労者、1号特定技能外国人を除く。)の総数を超えないこと。

⑧ 国土交通省の定めるところに従い、1号特定技能外国人に対する報酬予定額、安全及び技能の習得計画等を明記した「建設特定技能受入計画」の認定を受けること。

⑨ 特定技能所属機関は、国土交通省又は国土交通省が委託する機関により、⑧において認定を受けた計画を適正に履行していることの確認を受けること。

⑩ ⑨のほか、特定技能所属機関は、国土交通省が行う調査又は指導に対し、必要な協力を行うこと。

⑪ そのほか、建設分野での特定技能外国人の適正かつ円滑な受入れに必要な事項

 

■この記事を書いた人

行政書士 佐久間毅(さくま・たけし)

東京都出身。慶應義塾志木高等学校慶應義塾大学法学部卒。高校在学中に米国コロラド州のイートンでホームステイ。大学在学中は、他大学である上智大学の国際法の権威、故・山本草二教授の授業に通い詰める。大学卒業後は民間の金融機関で8年間を過ごし、現在は東京・六本木でビザ専門のアルファサポート・行政書士事務所を開業。専門は入管法、国籍法。


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