更新日時:2020年6月21日
行政書士 佐久間毅
興行ビザが間に合わないかもしれない!
僕が興行ビザを早く確実にゲットする方法を教えるよ!
【解説】
身も蓋もない言い方かもしれませんが、興行ビザを早く確実にゲットするコツは“急がば回れ”、これに尽きます。
早く申請をしてくれという社長や同僚、はたまた共催会社からの社内的・社外的プレッシャーに耐えきれず、とにかく手当たり次第に書類をかき集めて申請したら、その後入管から膨大な量の追加資料請求があってドツボにはまったという経験談はお客様からよく伺います。
そのような入管からみてテキトウだなと思われてしまう申請をしてしまうと、提出した契約書の一言一句までチェックされ、民法の契約法をめぐる議論にまで発展し、最後には訂正しなければ許可しないと半ばおどかされ、海外在住のアーチストの署名の取り直しにさらに時間がかかってしまうというような悪循環に陥ります。
経験の浅いご担当者が興行ビザの申請をされると結果を得るまでに3ヶ月かかると業界では言われていますが、それにはこのような事情があります。
入管からみて足りない書類がほとんどない、あるいはあったとしても1つか2つの限られた不備である場合には、かなりスピーディーに結果が得られることが多いはずです。
焦って不完全な書類をわずかばかり早く提出し申請後のやり取りに膨大な時間をかけるより、心証の良い書類を数日遅く提出してサクッと許可される方が最終的には早く結果にたどり着くことができます。
まさに急がば回れです。
今回の公演で興行ビザをもらうための条件は「飲食物を有償で提供しないこと」なんだけど、証明するの難しくない?
「する」ことを証明するより「しない」ことを証明する方が難しいんだよ。悪魔の証明と呼ばれているよ。
【解説】
興行ビザには立証のポイントが幾つもありますが、特に難関なのは会場に条件がつく場合です。リゾートホテルなどの宴会場などかなりの確率で許可されない場所がありますので要注意です。
飲食物を有償で提供しないことの立証は、厳密な証明を求められてもなかなか困難です。例えば熱中症対策として会場入口で無償でペットボトルのミネラルウォーターを提供する場合を考えてみましょう。当日会場に運びこまれたそのペット
本当に立証するとすれば、当日会場で無償で提供する様子を動画で記録するなどの方法を取らなければなりません。
しかしながら、事前に一応確からしいという心証を形成してもらうことはできるはずで、これを「疎明」と言います。この辺りを着地点として準備を進めることとなりますが経験が問われる場面ですので専門家にご相談ください。
もう面倒だから観光ビザで来てもらおうかな。
それはまずいよ。会社にもアーチストにも迷惑がかかるよ!
【解説】
興行ビザが必要な活動をするにもかかわらず観光ビザで入国して仕事をすることは不法就労、その仕事を提供した会社は不法就労助長罪に問われます。
最近お客様からお聞きしたところでは、同業者間の足のひっぱりあいで観光ビザで仕事をさせている/している会社や外国人が入管に同業者から通報されて、イベントの取り止めやそれに伴うチケットの払い戻しが発生している業界があるようです。
そのようなことがあると以後、その会社様が興行ビザを申請されても許可されづらくなってしまいますので要注意です。信用を大切にしましょう。
うちの社長は大臣経験者のS先生と知り合いだから、入国管理局に口利きしてもらえばいいよね?
なかなか動いてもらうのは難しいと聞くよ。政治家じゃなくて法務本省につてがあると強いかもね。
【解説】
国会議員とお付き合いのある方の中には、政治家に頼めば許可の方向にもっていけるのではないか、入管の審査を急がせてくれるのではないかとお考えになる方もいらっしゃいます。
結論から言えば、許可・不許可の決定を左右するような口利きはあり得ません。
昨今も学校許認可をめぐって政局が混乱しましたが、口利きという行為は政治家にとって極めてリスキーな行為です。
後援会で知り合った知人レベルでは思うように動いてはくれないでしょう。
うちは俳優のファンミーティングやアイドルグループのコンサートの企画が多いんだけど、同じコンサートといってもアイドルとJAZZとクラシックでは随分状況が異なるだろうし、一見似ている形態の興行も映画発表とCD発表では扱いが違うらしいね。
そうだね。安易な類推は危険なんだ。ビザ担当といっても実際には前任者からごく簡単な引き継ぎを受けているだけのことも多いから、立ち止まってきちんと検討することが必要だよ。
【解説】
アーチスト、スポーツ選手の類型ごとの注意点は次の通りです。
演出家
演出の必要があるため1ヶ月程度の長期滞在になることが多いはずです。そうすると興行ビザで申請できるカテゴリーが限られてきますので、公演会場設定には要件を満たすよう十分な配慮が必要です。
演出開始予定日に入国するためには事前にきちんとした準備期間が必要です。
歌手
コンサートのお手伝いはいつもバタバタの状況が多いです。会社のご担当者ではどうにもならない状況にまで追い詰められてから興行ビザのプロへの依頼を検討される方がいらっしゃいますが時すでに遅しのことも。早めのお声がけが大切です。
コンサートではなく日本でレコーディングをされる場合は公衆の面前で活動するわけではありませんので会場に関する心配事はなく比較的安心して申請することができるでしょう。
CD発表会は、短期ビザで活動が可能とされている映画発表会と同類であるようにお考えの方もいますが、CD発表会の場合は入管は興行ビザの取得が必要と考えています。
特にアーチストに直接の報酬が支払われない場合であってもCDの購入が発表会に参加する条件である場合は実質的な対価を得ているので興行ビザの取得は必須とされています。
発表会場は比較的小さなところが多いですが、この会場にも要件チェックが入りますので要注意です。
ファンミーティングも興行ビザの申請が必要です。ファンミーティング会場は一般にコンサート会場よりも狭いことが通常ですが、コンサート会場もファンミーティング会場も条件は同じですのでご注意ください。
ダンサー
クラシックバレエ、フラメンコ、ベリーダンス、現代舞踏など様々なジャンルがありますが、総じて申請の難度は高いです。
会場が比較的小規模であることや報酬も高額でないことが多いからです。
またフィリピンパブなどで働く女性がダンサーと称して入国し実際にはホステスをしていたりといった不正が横行していますので、そうではないまっとうな興行をされるダンサーも慎重な申請が求められます。
ダンサーの方が公演ではなくワークショップを開いて参加者にダンスを教えるために来日される場合は興行ビザではなく芸術ビザの取得が必要です。
ダンスの公演とワークショップを1回の来日で両方行いたい場合は、かなり高度で綱渡り的な申請が必要となりますのでビザの窓口へご相談ください。
スポーツ選手
日本各地を1年かけて転戦するチームスポーツもあれば、年末の格闘技イベントなど単発の大がかりなイベントもありひとくくりにはできません。
スポーツ選手のみならずトレーナーやメカニックなどそのスポーツ特有の補助者の必要性を理解してもらうことも大切です。
世界を相手にたたかっているスポーツ選手はビザの必要性を認識しており協力的ですが、そうでない方は動きが遅いことがありますので注意しましょう。
プロゲーマー
いわゆるeスポーツです。プロのゲーマーに興行ビザが許可されたことはありますが、新聞報道されたように国から「スポーツ選手」と認められたわけではありません。
昔からプロのチェスプレーヤーやプロ棋士などに興行ビザは発給されてきたのであり、プロのゲーマーであるeスポーツ選手もその延長としての位置づけです。
eスポーツは日本においてはまだ新しい興行分野であり資金的な裏付けが確かでない会社様が多いため申請は慎重を要します。
興行ビザは申請後の入管とのやりとりが大変と聞くんだけど。
うん、初めて自力で申請をする場合には3ヶ月程度かかるという業界関係者のかたが多いよ。
【解説】
興行ビザの場合、他のビザと比較しても基準はかなりの部分オープンになっているよ。だから申請側の不満の多くは解釈と適用の場面で生じることが多いんだ。
興行ビザに手慣れた行政書士に依頼すると、入管が欲しいと思っている情報を先回りして提出できるから、申請後に何度も何度も書類を作成し直したり、訂正を求められたりすることはないはずだよ。
興行ビザの申請にはどんな書類が必要なの?
興行ビザの申請に必要な書類はアーチストの活動によって異なるんだよ。
無事に興行ビザが許可されたら何に気をつけたらいいかな?
日本の法律を守って活動してもらい、期限内に出国してもらうよう気をつけてね。
【解説】
興行ビザの入国者は統計上、不法残留が多く発生しています。
数年前に入国管理局が公表したデータによると、興行ビザで入国した方が不法残留(オーバーステイ)となる可能性は他のカテゴリーのビザに比較してかなり高くなっています。
その人数は留学ビザから不法残留になる人数とほぼ同数です。
過去に不法残留者を出した招聘会社の申請は以後なかなか通らなくなりますので、招聘された方が確実に期限内に日本を出国するよう見届けてください。
無事に興行ビザが許可されたら在留カードをもらえるの?
興行ビザのカテゴリーによるよ。在留期限が3ヶ月までの人は在留カードはもらえないよ。
【解説】
在留カードは3ヶ月を超える中長期滞在者に交付されますので、15日や3ヶ月の興行ビザをお持ちの方には交付されません。
行政書士 佐久間毅(さくま・たけし)
東京都出身。慶應義塾志木高等学校、慶應義塾大学法学部卒。高校在学中に米国コロラド州のイートンでホームステイ。大学在学中は、他大学である上智大学の国際法の権威、故・山本草二教授の授業に通い詰める。大学卒業後は民間の金融機関で8年間を過ごし、現在は東京・六本木でビザ専門のアルファサポート・行政書士事務所を開業。専門は入管法、国籍法。
国際結婚と配偶者ビザ