更新:2021年2月3日
行政書士 佐久間毅
日本の配偶者ビザの申請方法の4つ目は、これまで日本に中長期的に滞在していたフィリピン人の方が、日本人との結婚を契機に、日本にいながらにして配偶者ビザへと切り替える申請方法です。
一般のかたは、海外から新規に入国するフィリピン人よりも、すでに日本でくらしているフィリピン人のほうが配偶者ビザをもらいやすいと考えがちですが、ビザのプロは逆にかんがえます。
なぜなら新規入国者よりも、ビザを変更するかたのほうが、審査される項目が多くなるからです。
以下、ご説明していきます。
この申請方法のポイント
配偶者ビザの条件(⇒こちら)をまず確認していただいた上で、他の申請ルートに比べ下記の点を特にご注意ください。
1)在留資格をAからBに変更するときには、これから取得する予定のBの在留資格該当性だけではなく、これまで持っていたAの在留資格で日本に滞在していたあいだ、日本の法令を遵守していたかが審査対象となります。そこでもし在留不良があったときには、たとえ配偶者ビザの要件を満たしていても、在留資格変更許可申請は不許可となります。
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留学や就労といった中長期の在留資格を日本で変更申請する場合には、日本人の結婚相手が申請代理人として申請することはありませんので、かならず申請人はかならずフィリピン人ご自身となります。
しかしながら、必要書類のほとんどは日本人が収集し、作成することとなります。必要書類のひとつである「質問書」の作成名義もフィリピン人配偶者ではなく、日本人であることにご留意ください。
中長期の在留資格を配偶者ビザへ変更するファーストステップは、フィリピン人のお相手が自分自身で日本の出入国在留管理局に在留資格変更許可申請をするところからはじまります。
この申請ルートの場合は、配偶者ビザの条件(⇒こちら)を満たしていることは当然のこととして、これまでに日本の法律を守っていたこと(=素行の善良性)が許可の条件となります。
どんなケースで素行の善良性が問題となるのかみていきましょう。
ケース1:そもそも入管法のルールをよく理解していないケース
一つ目は、そもそも入管法をよく知らず、フィリピン人のお相手が知らないうちに入管法違反を犯しているケースです。
たとえば、留学ビザをお持ちのかたは多くの方は資格外活動許可という特別の許可を得てアルバイトしていますが、その許可の効力は卒業してしまうと失われます。そのことを知らずに卒業後もアルバイトを続けているかたは多いです。
こういう方は自分が知らずのうちに不法就労していますので、入管が知るところとなれば当然、在留不良者として扱われ配偶者ビザが許可されることはありません。卒業後のアルバイトにかぎらず、本当は許されていないのに、許されていないことを知らずにされているということは沢山あります。
フィリピン人のお相手にかぎった話ではありませんが、外国人のかたが日本の入管法や施行規則を読み込んで知り尽くしていることは少ないので、入管の審査官やビザ専門の行政書士であればたちどころに違法行為を見抜いてしまうのに、肝心のご本人がそれを知らずにご自身で変更申請をしてしまい、在留不良者として配偶者ビザが不許可になることがよくあります。
一度法務大臣の名前で配偶者ビザが不許可になると、法務大臣の決定を覆すことは大変ですので、初回から慎重にいきましょう。
ケース2:自分が在留不良者であると、日本人の結婚相手に言い出せないケース
もう一つのケースは、フィリピン人のお相手が違法行為をしてきたことを認識しているが、日本人の結婚相手にそのことを言い出せずにいるケースです。たとえば留学生が週28時間を超えてアルバイトしていたケースです。
週28時間を超えてアルバイトをしてはいけないことは、学校から口酸っぱく言われているはずなので、そのようなルールがあることを知らない留学生はいません。しかし知っていながらみんなやっているからと、週28時間を超えてアルバイトしているフィリピン人留学生は多いです。
問題は、そのことは資格外活動罪という犯罪なので配偶者ビザ申請にあたってかならずフォローしなければならないのに、自分が素行不良者と思われたくないがために日本人配偶者に言い出せないケースです。
留学生と結婚された日本人は、お相手が過去の不法行為を言い出しやすいような雰囲気をつくってあげる必要があります。場合によってはうまく聞き出せるよう誘導してあげる必要があります。
誰だって自分の結婚相手にはよく思われたいですし、素行不良と思われたい人なんていません。だからこそ、日本人側の優しさで、うまく言い出せる状況をつくってあげて欲しいものです。
ケース3:難民申請中の特定活動ビザのケース
フィリピン人のお相手が難民申請中である場合には、細心の注意をしなければなりません。本当に変更申請をすべきかよく検討する必要があります。
本当に難民なのであれば母国に帰国することは命にかかわるので変更申請の一択ですが、本当は難民でないのに日本で働きたいがために難民申請をしている場合には偽装難民ですので、「素行の善良性」の立証が不可欠な変更申請ではなく、他の申請ルートも選択肢に含める必要が出てきます。
一度帰国したからと言って難民申請をした事実は消えませんが、ビザ申請のプロの力を借りることにより、配偶者ビザが許可されることもあります。
***
申請後、東京出入国在留管理局の場合は2か月前後で結果がでます。
在留資格変更許可申請が不許可になった場合は再申請をすることができますが、不許可になった理由を解決しないと何度申請しても同じ結果を得ることになります。一度不許可になってしまうとその結果は法務大臣の名前で出されますので、その後、その結果をひっくり返すことは大変です。
また、一度不許可になってしまうと夫婦間の関係もギクシャクしがちですので、余計なトラブルを抱え込まないためにも、初回から油断をしないようにしましょう。
よくあるミスは、みんなに共通で求められる書面だけを漫然と集めて入国管理局に提出してしまうというものです。それでも、何も弱点がないカップルの場合はちゃんと許可が下りますが、収入の継続性、安定性、額のいずれかや、年齢差や対面での交際が短い場合などはあっけなく不許可にされますのでご注意ください。
最近はNHKなどで入管を取り上げたドキュメンタリーなどが放映されてだいぶ周知されているとは思いますが、入管はときに人権侵害ではと思われるような判断をやってのけるシビアな組織ですので、甘い期待は捨てたほうがよいです。
逆にいうと偽装婚がとても多く、入管が性善説で動くことを躊躇する現実的な事情もあるのですが。
なお、フィリピン先行で結婚されたときはもちろんのこと、日本先行で結婚をされたときもフィリピン政府PSAに結婚を登録することができますし、しなければなりません。このとき、PSAから発行される結婚証明書はフィリピン先行で結婚したときは「Certificate of Marriage」、日本先行で結婚をしたときは「Report of Marriage」となります。
【申請先】出入国在留管理局 ※各都道府県に少なくとも本局、支局、出張所のいずれか1か所あります。
【必要書類】
(みんなに共通の書類)
・在留資格認定証明書交付申請書
・戸籍謄本
・フィリピンの結婚証明書 ※PSA発行のもの ※アポスティーユ付き
・住民票
・課税証明書・納税証明書
・身元保証書
・質問書
(弱点をカバーする書類)
・弱点にあわせて適宜
【許可条件】
・婚姻の真実性が立証されること
・収入の継続性・安定性・額に問題がないことが立証されること
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在留資格変更許可申請が無事に許可されると、出入国在留管理局で新しい在留カードが交付されます。
この在留カードが在留資格「日本人の配偶者等」の所持者であることの証明となります。
残念ながら不許可になってしまった時は、残りの在留期間と相談して、帰国して出直すか、もう一度変更申請をチャレンジするか決めましょう。
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・ フィリピン人による配偶者ビザ申請①:フィリピンから呼び寄せるケース
・ フィリピン人による配偶者ビザ申請②:夫婦ともにフィリピンなど海外在住であるケース
・ フィリピン人による配偶者ビザ申請③:フィリピン人が日本で自ら申請し、出国して結果を待つケース
・ フィリピン人による配偶者ビザ申請④:中長期の在留資格から変更するケース
・ フィリピン人による配偶者ビザ申請⑤:短期の在留資格から変更するケース
・ フィリピン人による配偶者ビザ申請⑥:前婚の日本人と離婚して、別の日本人と結婚するケース
行政書士 佐久間毅(さくま・たけし)
東京都出身。慶應義塾志木高等学校、慶應義塾大学法学部卒。高校在学中に米国コロラド州のイートンでホームステイ。大学在学中は、他大学である上智大学の国際法の権威、故・山本草二教授の授業に通い詰める。大学卒業後は民間の金融機関で8年間を過ごし、現在は東京・六本木でビザ専門のアルファサポート・行政書士事務所を開業。専門は入管法、国籍法。執筆サイト:配偶者ビザ
国際結婚と配偶者ビザ